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最高裁判所第一小法廷 昭和47年(行ツ)77号 判決 1972年11月09日

新潟県糸魚川市大字上刈東田一九四番地

上告人

杉本大六

右訴訟代理人弁護士

坂上富男

同県同市大字寺町字天ケ坪一〇二一の二

被上告人

糸魚川税務署長

森泉好人

右当事者間の東京高等裁判所昭和四六年(行コ)第六九号所得税課税所得金額更正処分の取消請求事件について、同裁判所が昭和四七年五月三〇日言い渡した判決に対し、上告人から全部破棄を求める旨の上告の申立があつた。よつて、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人坂上富男の上告理由について。

所論の点に関する原審の認定判断は、相当として首肯するに足り、原判決(その引用する第一審判決を含む。以下同じ。)に所論の違法はない。論旨は、独自の見解ないし原審の認定しない事実を前提として原判決を攻撃するものにすぎず、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岩田誠 裁判官 大隅健一郎 裁判官 藤林益三 裁判官 下田武三 裁判官 岸盛一)

(昭和四七年(行ツ)第七七号 上告人 杉本大六)

上告代理人坂上富男の上告理由)

原判決は租税特別措置法第三五条について、その解釈を誤り事実を誤認しているので破棄さるべきものである。

一、本件の発生起因

昭和三八年九月一九日北陸本線復線電化工事の実施に当り上告人所有宅地並に借地が工事区間に該当し、訴外昭和電工株式会社所有の土地建物と対等交換をなし昭和三九年三月三〇日上告人の牛乳処理販売業を営むに適せず、これを金井パン店に売却、昭和四〇年三月所得税法に定むる破産申告を経て、租税特別措置法第三五条の居住用住宅の買換申請を提出受理の処、昭和四一年九月一七日被上告人は買換申請承認を取消し、所得税法による更正の処分をなしたことに起因して異議の申立審査の請求は何れも棄却され本訴に至つたものである。

二、本件の違法性

1 本件居住用資産買換の承認取消しは適法か。

◎ 租税特別措置法の地位と適用

租税特別措置法は所得税、法人税等、各法の規定を政策的に減免、増加させる事を目的として立法されたものであり国法を考慮し政府が行政政策を遂行する一環として主要な法律の地位を有している。

租税特別措置法(以下措置法)第三五条は住宅の困窮を救済する為、居住用資産について一定の制限を与えた上、租税徴収の返期を規定したものであつた。

個人がその所有する資産を処分して一年以内に住宅用資産を取得した時は、これに対する課税を返期する趣旨のものである。

然しながら、当時法律的条文は可議広範囲に解釈され、現地徴税関機の取扱いも画一的に運営されていたものではない。

取得時期について使用収益、発生の時点と見るもの、又着工説によるもの、更に着工とは何か夫々相争う中にあつたのである。

然して、その取扱いも相当困乱し、その運営高級納税官吏の私見又は納税者の質疑に対する回答として運用していたものである。

これ等の事法は一審に於ける被上告人提出の乙第四号証ノ一に証拠するのである。

本号証は、昭和四〇年三月号税理(月刊誌)誌上に於て発表されたもので、始て、着工説なるも適法であると、解釈されたもので、ここで注意を要する事は本号発表と本件発生の時期である。

昭和四〇年三月(月刊誌の性格上、二月刊行と推定される)本号発表と、本件発生の起因となつた所得税確定申告受理最終は同年三月一五日とは旬日を経ずして全く同時になされた感がある。

所得税法に於ける前年確定申告の受理開始日は二月一六日より始り三月一五日に終了している。

現地、徴税機関が最も繁忙を極むる時に本号の釈明は即、現地収税官吏に理解され運営に万全が期せられたかは、全く疑問と言はざるをえない。

これ等の事実は、昭和四五年四月二三日一審裁判所に於ける証人尋問

(被上告人証人館野宝造の証言)にこれ等の判断がいかに、あいまいであつたかを明瞭に示している。)

申請受理承認

上告人が所得税確定申告書を提出した昭和四〇年三月十五日と買換の適当か不能となる同年三月二九日とは二週間を経ずして近追した日時にあつた事は明白であり、取得する資産が新築物件である事を考慮するなら、本件は当初より特措法の不適用要件が構成されていたと判断できるのであり、ここで敢えて、受理承認し数カ月後、取消処分をなすが如きは無知なる納税者を「ほんろう」したと言つて過言ではないにも拘らず、受理承認した事は相当の理由が税務署長の認識にあつた事実を証明していると、言わねばならない。

税法が難解でありこれ等の運用の大部分は、現地税収官吏に於て処理され、納税者はその指導の下に申告して来た事実は過古における税務処理がこれを証言している。

本件と言えどもその側、外に属するものではない。

特措法の条文解釈が昭和四〇年六月以降、各諸説を整理統合し現行の解釈がなされたとしても本件発生当時指示指導を受けた上告人に何等影響を及ぼすものではない。

一審裁判所の判決理由によれば同判決(五)、被上告人が本件特措法の承認をなしたと認める証拠がないと断定し、本件棄却の申渡をなしたものであるが、事実を誤認したものである。

昭和四六年三月二五日原告本人調書によれば買換申請を受理した糸魚川税務署長は右申請を受理承認した事は明白であり、且つ、資産税事務担当館野宝造がこれを指示、指導したことも明白な事実である。

昭和四〇年六月証人館野宝造が上告人宅を訪れた事は、同人が証言して居り、その目的が本件の事後認定と関係がない。

本件の工事実施の認定ではないと言つているが、同署資産税担当職員は同人一人であり、担当者自身が現場を視察しながら期限後、着工について何んの注意すら、与えていないのは、少なくともボーリング等の事実を着工と認識していたものであり、又その際の言動は承認してあるから、早く施行しなさいと言う態度である。

同年七月頃、同証人並に糸魚川税務署長が転勤等がない場合は、本件が発生しなかつたとも推測出来るのである。

本件を特措法の条文により文字通り解明を行えば一年以内に資産の所得がなされていない。

随つて更正に違法性がないと法論するであろうが、他方国家公務員により行政指導推力により指示を受けた上告人の証言が信頼性を欠除するとして排除された場合、保身的な被上告人証言のみとなり真実は曇ざるを得ないのである。

本件は正に国家正義に著しく違反すると言わざるを得ない法の通り上告理由書を提出する。

以上

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